常識やルールを壊していく、それが非日常への入り口|田丸雅智|ショートショート作家
正直、僕は本をあまり読まない子どもでした。大学に入って自分で小説を書き始めてから読むようになったくらい。でも、昔話やおとぎ話、絵本は大好きで、小さなころは祖父母や両親が読み聞かせをしてくれたのを覚えています。 僕にとっての物語をつくることの原体験は、何かをクリエイトして人を楽しませること。最初は工作でした。祖父母の家が大工と造船業を営んでいたので、木と鉄の素材はいくらでもあり、両親は教師で使い終わった教材を持ってきてくれる。説明書どおりにつくるのが好きじゃなくて、途中から勝手にアした。昔話も同じで、途中から「桃太郎に4人目の家来が来た」と新しいお話を勝手につくって話す。そうすると、一緒に聞いていた弟や従姉妹がゲラゲラ笑う。反応を見るのが楽しくて、新しいお話をどんどんつくり出していました。
昔から、常識やルールに捉われることや、SFとかミステリーというジャンルで区別することが好きじゃなかった。ファンタジーもまったく違う世界のことではなくて、常識や物理法則から解き放たれることが非日常への入り口、日常生活のなかにこそファンタジーは潜んでいるのだと思います。それは現実逃避ともいえるかもしれませんが、常識を超えた豊かな想像力は現実世界にもインスパイアを与えると信じています。
僕はいま物語を書いていますが“クリエイトして人を楽しませる”という根本は、昔から変わっていません。科学の世界の人たちにも刺激となる、そんな物語を書いていきたいです。
田丸雅智
1987年生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。新世代ショートショートの旗手として精力的に活動している。おもな著書に『夢巻』『海色の壜』(ともに出版芸術社)『家族スクランブル』(小学館)など。
» mammoth No.33 Fantasy Issue | 君の、ファンタジーの扉を開こう!